ADAM ET ROPE',アダムエロペ2022AW BEAUTIFUL CONTRAST

ある人に強烈に惹きつけられるとき、その要因となるのは表面的なものではなくその人となりに奥行きを感じたからではないだろうか。
相反する2つの要素を持つ美しさを、今を輝く表現者たちの言葉から見つけたい。

Vol.01 iri シンガーソングライター 「湘南/東京」

シンガーソングライターiriを語るうえで、神奈川県湘南エリアで育ったという点は欠かせない要素である。東京から電車で1時間強、最近は都内からの移住者も多く憧れ的な目を向けられるこの場所は、ミュージシャンとして忙しい日々を送るiriにとってどのような存在なのか。一方で活動拠点としての東京にどのような魅力を感じるのか。ふたつの土地についてお話を伺った。

Photography
TATSUNARI KAWAZU(S-14)
Styling
SUMIRE HAYAKAWA(KiKi)
Hair & Makeup
MIHOKO FUJIWARA(LUCK HAIR)
Design
KOICHI HACHIMAN(ARKHAM design)
Text
REIKO MATSUSHITA
Edit,Production
MANUSKRIPT
BEAUTIFUL CONTRAST

地元はいちばん安心できる場所。
ふっと肩の力が抜けるのがわかる。

最近アーティスト写真を変えました。これまで割とスタジオでつくり込んで撮ることが多かったのですが、昔よりリスナーさんも増えてライブなどで自分のキャラクターをわかってもらえるようになったので、より自然に撮ってもらうのがしっくりくると思いました。海を背景にしたいという希望があったわけではないのですが、地元が湘南なので、海辺を移動しながらの撮影で素の自分を出せたのではないかと思います。皆さんにとってそうであるように、私にとって地元はとにかく安心できる場所。時間の流れがゆったりしていて、観光客がいなくなった夜や、オフシーズンにさしかかる秋なんかはちょうどいい静けさなんです。夕方に空が赤く染まって、海に反射してキラキラ輝いている時間帯がいちばん好き。高い建物がないから、空が広く感じられるんです。最近はおしゃれな店も増えましたが、子どものころは古い商店街や婦人服用のブティックなどがある商売っけのない田舎町でした。都内から電車で帰るとき、大船駅で白い観音様が視界に入ると、ふっと肩の力が抜けたような気持ちになるのは、同じ出身の方ならわかってもらえるかも。少し足を伸ばして鎌倉まで行けばラッパーなどのミュージシャン界隈やスケーターのコミュニティがあって、若い人たちがワイワイやっているおもしろさもあります。ただ、私自身は音楽との距離感を大事にしているので、地元にいるときはあまり音楽を聴かないんですよ。常に音楽のことを考えがちだから、クールダウンしないと情報量が増えすぎてこんがらがっちゃうので。

人のエネルギーが渦巻く東京では出会う人から新しい発見をもらう。

一方で仕事の日は、家を出たらオンのスイッチをすぐに入れたいタイプです。アップテンポな曲でテンションをあげながら撮影に向かったり、レコーディング前に電車のなかで歌詞をアレンジしてみたり。自分で自分の気分を盛り上げていきます。ファッションも地元にいるときはあまり気にしませんが、都内ではiriというアーティストである前提で服を選んでいるように思います。意外に思われるかもしれませんが、地元ではワンピースを着たりもするんですよ。湘南のイメージを色で表すと緑、青、あと白で、それは自然の力を強く感じるから。かたや東京は人のエネルギーがすごいので、ビビッドなピンクという印象があるかも。とくに新宿エリアはこれまでの人生であまり関わってこなかったタイプの人が多い場所で、今になって興味が出てきました。人間観察しつつ、すれ違う人たちの人生をあれこれ妄想して曲のインスピレーションにすることもあります。それこそ最近、新宿で人生初のネイルサロンに行ったのですが、スタッフの若いギャル系の子が素晴らしい感性を持っていて。彼女の話をもっと聞きたいと思ったんですよね。当たり前ですが人と出会って話してみて、新しい発見をするのってすごくおもしろい! 東京で出会う人に魅力を感じる一方で、場所としては常に混んでいて空気が薄くギラギラした感じがあまり得意ではないのも正直なところ(笑)。ただ、冬の東京タワーの美しさは格別ですね。街自体は寝静まっているんだけど、上品に光が瞬いている風景のコントラストにもテンションがあがります。

海外移住することがあったらやっぱり人が温かい海辺の街に住むと思う。

東京と湘南だけにこだわっているのではなくて、国内も海外も住んでみたい場所はたくさんあります。若いうちにいろいろ挑戦してみたいので、都会でアーティストとして活動しつつ、住む場所としては地元との共通点が多い海沿いの町で暮らしてみたいですね。国内だと福岡や沖縄、海外だとイタリアの南部とか。小さいころにイタリアの田舎街を訪れるテレビ番組を観てからずっと憧れていて、数年前に初めてシチリア島を訪れることができたんです。オフシーズンは人が少なかったり、建物があまりなくて自然と絶景が楽しめて、人々が温かかったり…。これって地元にすごく近いんですよ。こんなに海辺の魅力を話していると都会は必要ないかと思われそうですね(笑)。曲を書く方には多いと思うのですが、私自身、いい意味でも悪い意味でも感情の波がけっこうあるほうでして。プライベートでは人にさらけ出せないパーソナルな部分が、曲をつくったりステージで歌ったりすれば自然と表現できるんです。なのでミュージシャンでいられる場所との両立が大切なのかもしれません。
今春に出したアルバムはここ数年のもどかしい日々を切り取った少し重めの作品だったのですが、夏にリリースしたシングル『STARLIGHT』ではその気持ちが一気に浄化されて希望が見える曲になっていると思います。これから続く次の作品はサウンド面でもおもしろいことができたらと考えているので、楽しみにしていてください。

PROFILE

iri
神奈川県出身。2016年にアルバム『Groove it』でメジャーデビューを果たす。
2022年はアルバム『neon』に続き、シングル『STARLIGHT』、そして9月14日にはシングル『染』をデジタル配信するなどリリースが続き、10月13日には自身最大規模となる東京国際フォーラムでのワンマンライブ、iri Presents ONEMANSHOW『STARLIGHTS』を開催。https://www.iriofficial.com/live/

STYLE LOOK

CONTENTS ARCHIVE