The Source of Inspiration -旅 余暇 食 - vol.03 FRUIT OF THE LOOM × 平野 紗季子

SPECIAL04 19, 2018

旅、余暇、食ーーーー。
それは私たちのアイデンティティのみなもと。今シーズンのアダム エ ロペは、絵画、歌、文章を生業とする3人のクリエイターをパートナーに選んだ。
彼らにアダム エ ロペが今季特に注力するアイテムを着用してもらい、そこからインスパイアされた独自のアイデアでそれぞれの創作活動を行ってもらった。
ありのまま、自然体の姿で彼らがとらえたものは?
ブランドのコンセプトとともに、そんな3人のドキュメントをお届けしたい。

最高級レストランの創作料理からコンビニのおにぎりまで、生粋のごはん好きが食を追い求めるのはそこに物語が存在するから。
フルーツパーラーのミックスジュース、市場に並んだ果物の色。
フルーツの色は街の色をつくる。
色と味を、独特のフィーリングで綴って。

平野 紗季子 プロフィール
フードエッセイスト。主な著書は『生まれた時からアルデンテ』。世界の一流レストランからコンビニエンスストアまで、食を楽しむことへの思いを綴る。4月中旬より、自身初プロデュースとなるスイーツを販売予定。現在、パティシエとデザイナーの3 人で試作を重ねる。5月より、『SPUR』にて食連載もスタート。


そこにストーリーがあれば、食べ物なら無差別に好き。

幼少の頃、平野が住んでいたのは福岡だった。父、母、兄、家族全員食べることは好きだったという彼女。「母は料理が下手でしたけど(笑)。たいしたもの作れないのに、気合いを入れて鴨のグリルとか帆立ときゅうりのカルパッチョを作るけれど、おいしくなくて家族を困らせるタイプでした」

当時は、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」が世界いちのレストランだと信じて疑わなかった。ところが、その後、東京に越してから、彼女は衝撃的な経験をすることになる。「びっくりしました、こんな素晴らしいお店がたくさんあるんだと。ふだん家で食べる食事とも違う、学校の蛍光灯の下で食べる給食とも違う。雰囲気のあるダウンライトの下で、見たこともない料理が出てきて、そしてお姫様扱いされるような一流のサービス。もちろん、テレビもないので家族みんなで目を見ながら向き合って話せるし、ソーシャルな空間だから喧嘩もしない。外食が夢。レストランがファンタジーなんだな、って、その時何より強く思ったんです」

テーマパークや遊園地ではなく、食の世界が夢の世界につながっていた平野。その思いや体験をずっと残しておきたくて、小学校4 年生くらいから、食日記を綴るようになったという。多少、形は変わったものの、それがベースとなって、いま、仕事として成り立っているというわけだ。

その食べ物にストーリーがあれば何でも好き、と無差別に楽しむのも平野スタイルだ。「最高級レストランのコンテンポラリー料理も、古びた小料理屋で食べるおばあちゃんのナスの煮浸しも、コンビニめしだってファスフードもそう。その先にどんな気持ちが生まれるか、アドレナリンが出るかで、ひとつの物語になるんです。映画でアドレナリンが出る人と同じ。ハリウッド超大作のハッピーエンドだけでなく、単館で上映している名の知れない監督のちょっと暗い映画に、心揺さぶられる人もいるだろうし。それを私は食で感じているんです」。たとえば、仕事で落ち込んでいる時にコンビニで買ったプリンの味。そういう、“沁みる感覚”を彼女は常に食に求めているのだ。

MORE INFO
ワンピースはメロン(パステルグリーン)のほか、コーヒー(ブラウン)、グレープ(パープル)、ハッカ(ホワイト)、パイナップル(イエロー)の展開。
アダム エ ロペ×サクマドロップスによるスペシャル缶。ワンピースのフルーツ染めに使用したフルーツ味のドロップが入る。

フルーツからインスパイア、色の氾濫から溢れ出た感覚。

今回、平野が着用しているワンピースは、フルーツ オブ ザ ルームとの別注カラーアイテム。染料には本物のフルーツを使用しており、パステルグリーンは、実際、メロンを用いたユニークな1着だ。「フルーツに関して沁みた感覚といえば、赤坂にパンケーキとフルーツの専門店があるんですが、以前、仕事で疲れ果てた時にひとりで行って食べた、パンケーキの味が忘れられない。いまでこそ、パンケーキはOLさんに人気のファッションフード的存在になっているけれど、むしろ、社会の病理に悩まされている彼女たちを癒してくれる貴重な存在なのかも、と感じました。丸くてほのぼのとしていて食感も柔らか。人を傷つける要素なんて何もないから」

 フルーツが発想源、色と味をテーマに綴ったエッセイは、平野が海外で出合った果物の色からもインスピレーションを受けている。「とくに昨年の4月に訪れた台湾が思い出深い。台湾の色ってフルーツの色だなって感じました。街の市場や店に死ぬほどフルーツが溢れていて、台湾中のフルーツが爆発したら世界に虹がかかるだろうな、と思わせるほどの極彩色がとにかく印象的で」。北欧はちょっと暗いベリーの色。東南アジアはヴィヴィッドなトロピカルな色がある一方で、茶色い、土の中の鮮やかさもあったという。決して装飾的ではないが、渋さの中にある色の豊かさ。そして生きている、という力強さ。

 フルーツが街の色をつくり、人々の生活をも色づける。平野があらゆる視点で、食を、味を探求し続けるのは、もはや宿命だろう。そして、食が、味が、自らの生活を色づけるために不可欠なエッセンスであることは間違いない。

MORE INFO
[ LEFT ] ミックスジュース、サンドイッチ、盛り合わせ。フルーツから平野が連想するエピソードも興味深い。
[ RIGHT ] フルーツ染めされたTシャツはランダムにのせたラベルもアクセント。右:ワンピースはメロン(パステルグリーン)のほか、コーヒー(ブラウン)、グレープ(パープル)、ハッカ(ホワイト)、パイナップル(イエロー)の展開。

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宝石のようだ。

平野 紗季子・文

フルーツを悪く言える人がいるだろうか。栄養価は高く、洗うだけで食べられ、値段は手ごろで、なにより見た目に美しい、あの、カラフル。ホテルでも、レストランでも、スーパーマーケットでも、フルーツが盛られているだけでその場が高揚する。ケーキの上のいちご、カクテルに浮かぶオレンジの輪切り、美女がつまんだ一粒のチェリー。ひときわ輝いて、眩しい。宝石のようだ、そう思いながらかじった金柑がとても美味しかったのは先週のこと。

台湾に行ったとき、あらゆる路地で遭遇するフルーツ屋台の山にたびたび目を奪われた。台湾中のフルーツが一度に爆発したら世界に虹がかかるだろう。そう思ったほどだ。圧倒的な極彩色で、マンゴーは、パッションフルーツは、スイカは私に迫ってくるのだった。

台湾に限らずとも旅先では必ずその街の果物屋に行く。軒先に並ぶ果実や野菜はとても雄弁で、色や香りを通して、街の風土を、文化を、歴史を、端的に語ってくれる。ロシアではビーツの山が目について、あの目の覚めるようなショッキングピンクはきっとボルシチに使うんだろう。寒い国だからスープくらいは鮮やかでないとやっていけないのかもしれない、なんてことを勝手に思った。スリランカならウッドアップルだ。その果物は恐竜の卵のような色と形をしていて、錆びたナイフでガツンと割ると中から柔らかい果肉が現れる。その茶色い果肉にヤシの実のシロップをとろりとかけて、店のおじさんが差し出してくれた。一口食べればドリアンにも似たモワッとした芳香、とても甘く、とても濃く、この湿気と埃と熱っぽい風土に溶けてこそはじめてその味を揮う果実なのだと思った。

そこへきて日本の果物屋はなんとも清潔な感じがする。桐の箱に入った桃やいちごなどは、海外の人にとってはアメイジングそのものであるらしい。整然と並んだきらめく果実たちは工芸品のような緊張感すら漂わせている。あのひんやりとした独特の空気、花屋にもそれに近いものを感じるけれど、いずれも都市のオアシスのようだ。特に夏の暑い日には。

フルーツは手放しで褒めちぎるに価する素晴らしい存在だけど、色と味の連関については注意しなければいけないと常々思う。例えばドラゴンフルーツ。あれだけ溌剌とマゼンダピンクに染まっているのだから、さぞトロピカルで艶やかな味わいがするかと思いきや土のような味がするし甘くない。ものすごく裏切られた気持ちになる。キウイフルーツを初めて食べた時も衝撃だった。あの毛羽立った可愛らしい卵のような外見に抹茶色の柔和な果肉は、優しさに満ち溢れた味わいを持って然るべきだと思って噛み付けば、痺れるような酸味が脳天を貫く。幼稚園児だった私は思わず泣いてしまった。フルーツは時に人を泣かせる。食べ慣れてしまえばどうということもないが、新しく出会うフルーツには驚きがつきものなのだ。そしてその驚きは一生かかっても尽きることがないだろう。なぜならまだ出会っていないフルーツが、見たことのない色彩と味わいの果実が、この星には山ほど存在するのだから。